誹謗中傷で損害賠償は取れるのか?金額・難易度・現実を弁護士が解説
インターネット上の誹謗中傷被害に遭った方から、「損害賠償を請求したい」というご相談を多くいただきます。しかし、実際に賠償金を受け取れるケースはどれくらいあるのか、いくらもらえるのか、正直なところを知っている方は多くありません。
本コラムでは、誹謗中傷における損害賠償請求の現実を、実務の観点からお伝えします。
1 そもそも損害賠償請求できる条件とは
誹謗中傷の投稿に対して損害賠償を請求するためには、大きく以下の3つの要件を満たす必要があります。
① 違法な投稿であること 批判や感想は、たとえ厳しい内容であっても、原則として違法とはなりません。損害賠償の対象となるのは、事実無根の情報を摘示する「名誉毀損」、侮辱的な言葉で人格を傷つける「侮辱」、虚偽の事実を流す「偽計業務妨害」などに該当するケースです。
② 投稿者が特定できていること 相手が匿名であれば、まず発信者情報開示請求によって投稿者を特定する必要があります。特定できなければ、損害賠償請求は事実上不可能です。
③ 損害が発生していること 精神的苦痛(慰謝料)や、売上・仕事の減少など、具体的な損害の発生が求められます。
2 損害賠償額の相場は?
これが多くの方が最も気になる点です。結論から言えば、個人間の誹謗中傷で認められる慰謝料は、10万〜100万円程度が現実的な相場です。
ケースによって金額は大きく異なりますが、目安として以下のような傾向があります。
| ケース | 慰謝料の目安 |
|---|---|
| 一般人への侮辱・名誉毀損(軽微) | 10万〜30万円程度 |
| 継続的・組織的な投稿による被害 | 50万〜100万円程度 |
| 著名人・公人への重大な名誉毀損 | 100万円超のケースも |
| 企業への業務妨害・風評被害 | 実損額による(高額になりやすい) |
企業の場合は、売上減少や取引機会の損失といった「実損害」を立証できれば、慰謝料以上の賠償を求めることも可能です。
3 実際に回収できるか、が問題
損害賠償請求が認められても、相手が支払えない、あるいは支払わないケースがあります。
裁判で勝訴判決を得ても、相手に資力がなければ実際の回収は難しくなります。また、投稿者が特定できてもすぐに連絡が取れない、交渉が長期化するといったことも起こりえます。
損害賠償請求を検討する際には、「勝てるか」だけでなく「回収できるか」という視点も持っておくことが重要です。
4 損害賠償請求までのステップ
実際に損害賠償を請求するまでには、いくつかの段階を踏む必要があります。
- 証拠の保全 問題の投稿をスクリーンショット・URL・日時とともに保存する
- 発信者情報開示請求 匿名投稿者の氏名・住所を特定する
- 内容証明による請求 特定した相手に対して賠償を求める通知を送る
- 交渉・訴訟 相手が任意に応じない場合は民事訴訟へ移行する
このプロセスには数か月から1年以上かかることも珍しくありません。特に発信者情報開示請求の段階での時間的なロスが、後の手続き全体に影響します。
5 刑事告訴と損害賠償の違い
誹謗中傷への対応として、民事の損害賠償請求のほかに、刑事告訴という手段もあります。
刑事告訴は、名誉毀損罪・侮辱罪・脅迫罪などを警察・検察に申告するものです。2022年の侮辱罪の法定刑引き上げにより、刑事的な抑止力は以前より強まっています。
ただし、刑事告訴によって直接お金を受け取れるわけではありません。賠償金を得るには民事手続きが必要であり、両者を並行して進めるケースも多くあります。
6 損害賠償よりも大切なこと
損害賠償請求は、誹謗中傷への対応手段のひとつですが、すべての被害者にとって最適な選択とは限りません。
時間・費用・精神的負担を考慮したうえで、「削除だけで十分か」「特定して請求まで進むか」「刑事告訴も視野に入れるか」を、状況に応じて判断することが重要です。
重要なのは、最初の段階で正しい選択肢を持つことです。放置によって証拠が消え、投稿者が特定不能になってからでは、どの手段も取れなくなります。