誹謗中傷バスターズ

YouTubeでの誹謗中傷にどう対応するか──弁護士が解説する削除・発信者特定の実務

YouTubeにおける誹謗中傷は、他のSNSにおける誹謗中傷と大きく性質が異なります。短文の投稿ではなく「動画」という形で公開されるため、一本の動画が長期間にわたり検索結果に残り続け、被害が固定化しやすいのです。本コラムでは、YouTube上で誹謗中傷を受けた際の削除申請・発信者特定の実務について、弁護士の視点から解説します。

1 YouTubeの誹謗中傷が持つ「二層構造」

YouTubeでの誹謗中傷被害は、大きく二つの層に分かれます。一つは「動画そのもの」による誹謗中傷です。特定の個人や企業を名指しで批判する、いわゆる暴露系・告発系の動画がこれに当たります。もう一つは「コメント欄」での誹謗中傷で、動画の内容とは無関係に、コメント欄で特定人物への攻撃が展開されるケースです。

この二層は、対応ルートがまったく異なります。コメント欄であれば比較的迅速な削除が見込めますが、動画本体の削除は格段にハードルが上がります。動画は投稿者にとって「コンテンツ資産」であり、収益化されている場合には経済的利益が絡むため、投稿者が任意に削除へ応じることはまず期待できません。

さらにYouTube特有の問題として、「切り抜き」「転載」による二次拡散があります。元動画を削除できても、切り抜き動画やショート動画として複製されたものが残り続ければ、被害は終わりません。対応にあたっては、元動画だけでなく派生コンテンツまで視野に入れた戦略設計が不可欠です。

2 よくある被害パターン

当事務所に寄せられる相談で多いのは、次のようなパターンです。第一に、いわゆる「暴露系」チャンネルによる名指しの動画です。事実無根の内容や、一部の事実に虚偽を織り交ぜた内容で個人・企業を攻撃し、再生数を稼ぐ手法です。第二に、元従業員や取引先など関係者による告発風の動画です。第三に、商品・サービスのレビュー動画を装った営業妨害です。そして第四に、コメント欄での個人攻撃や個人情報の晒し行為です。

注意すべきは、動画タイトルやサムネイルだけで名誉毀損が成立し得るという点です。本編では断定を避けていても、サムネイルに「詐欺」「逮捕」といった文言を大きく掲げていれば、それ自体が社会的評価を低下させる表現として法的責任の対象になり得ます。

3 まず行うべきは証拠保全

どの対応を取るにしても、出発点は証拠保全です。具体的には、①動画URL・チャンネルURL・チャンネル名・登録者数、②問題となる発言箇所の再生時刻(タイムスタンプ)、③タイトル・サムネイル・概要欄のスクリーンショット、④再生回数・コメント欄の状況、⑤投稿日時──これらを記録してください。

動画は投稿者がいつでも削除・非公開化できるため、「証拠を残す前に消えてしまった」という事態が頻繁に起こります。削除されると発信者特定のハードルも上がるため、被害に気づいた時点で直ちに保全することが重要です。動画そのものの保存についても、証拠化の方法は専門家にご相談ください。

4 削除申請の実務

コメント欄の誹謗中傷については、まずYouTubeの報告機能(嫌がらせ・いじめ等の報告)を利用します。なお、自社・自身のチャンネルに付いたコメントであれば、チャンネル運営者の権限で削除・ユーザーの非表示設定が可能です。

動画本体については、複数のルートがあります。①プライバシー侵害の申し立て(氏名・住所・顔などが特定可能な形で含まれる場合)、②名誉毀損等を理由とする法的削除依頼(Googleの法的削除フォーム経由)、③著作権侵害の申し立て(自身の撮影した映像等が無断使用されている場合)です。どの根拠で申し立てるかによって審査の主体も通りやすさも変わるため、事案に応じた使い分けが結果を左右します。

これらの任意の申請で削除が認められない場合は、裁判所への削除仮処分の申立てを検討します。動画の一部のみが違法と評価される場合、動画全体の削除が認められるかは争点になりやすく、申立ての構成には専門的な判断が必要です。

5 発信者の特定──実は他のSNSより有利な場合も

投稿者に損害賠償を請求するには、発信者情報開示の手続によって投稿者を特定する必要があります。YouTubeの運営主体は米国法人のGoogle LLCですが、日本の裁判所での開示手続は確立しており、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示命令の申立てが可能です。

むしろYouTubeには、他の匿名SNSにはない特徴があります。収益化しているチャンネルの運営者は、広告収益の受け取りのためにGoogleへ実名・住所・口座情報等を登録しているのが通常です。また、ある程度の規模のチャンネルであれば、過去の動画・概要欄・関連SNSから運営者にたどり着けるケースも少なくありません。「匿名の暴露系チャンネルだから泣き寝入りするしかない」という思い込みは誤りです。

ただし、アクセスログの保存期間には限りがあります。投稿から時間が経つほど特定の可能性は下がっていくため、損害賠償請求まで視野に入れる場合は、被害発覚後できる限り早く手続に着手すべきです。

6 収益化されている誹謗中傷は「賠償が現実的」

誹謗中傷の損害賠償では、加害者を特定できても資力がなく回収できない、という問題が常につきまといます。しかしYouTubeの場合、収益化された動画による誹謗中傷は、加害者が広告収益という経済的利益を現に得ています。再生数の多い悪質な動画ほど、加害者の得た利益や被害の拡散規模を損害額の主張に反映させやすく、賠償請求が実効性を持ちやすいのです。この点は、被害者にとって数少ない「YouTubeならではの追い風」と言えます。

7 まとめ──動画の誹謗中傷は時間との勝負

YouTubeの誹謗中傷動画は、放置すれば検索結果に残り続け、切り抜きによって増殖し、被害が固定化します。一方で、証拠保全・削除申請・発信者特定のいずれも、早く動くほど選択肢が広がります。